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サイレント・パニック

福島第一原発の進まない状況に怯える人々がいる。
すでに故郷を離れ、安全圏へ移動する人々もいる。
とくに、幼い子供達の健康を懸念する親たち。
危険を感じることのリスクを回避するのは自己判断だ。
それを非難することは誰にもできない。

計画停電で東京の交通網が幾分、混乱している。
しかし通勤通学客が混乱している様子は見えない。
冷静に状況判断しているように思える。

だが、知り合いの東京在住者によると、
会社から早く帰るように促され、
オフィスでも原発の話で持ちきり。
漠然とした不安、を感じているという。
それはもしかしたら多くの首都在住者の思いかも知れない。

スーパーマーケットからモノがなくなっていく。
防災用品関連の商品が品薄になっている。
じわじわとそうした危機感が迫ってきている。

なかには、すでに軽いパニック状態になっている者もいるようだ。
小さな子供を抱える親である場合が多い。
それは、あるいは本能的なものなのかも知れない。

内田樹教授は、
〔西日本へ「疎開」を〕という記事を朝日新聞に書いている。
引用する。

「危機的状況では、リスクを過小評価するよりは過大評価する方が生き延びる確率は高い。避難が無駄になっても責める人はいない。「何事もなくてよかっ たね」と喜べばいい。「安全だ」と信じ込まされて、いきなり「さあ逃げろ」と言われたらパニックになる。メディアの報道では「避難できる人は避難した方が いい」という専門家の発言が抑圧されているように感じる。
 しょうがないから、僕はネットで安全な西日本などへの「疎開」を呼びかけている。とりあえず、妊婦や幼児や病人、児童生徒たちは、用がなければ被災地と救援の活動拠点となる都市部を避けた方がいい。
 政府は可能な人には「疎開」を呼びかけるべきだろう。東北・関東から100万でも200万でも人口が少なくなれば、資源への負荷も軽くなり、救援の資材や人員の搬送も円滑になる。」(asahi.com 2011年3月17日1時20分)

今朝から福島原発の原子炉に、警察の高圧放水機で放水するという。
高温化している燃料棒を冷却しなければいけない。
しなければ、大量の放射性物質が大気内に放出される危険がある。
ここまで断言されてしまえば、危機感を感じずにはいられない。
少なくとも自分ならそうだ。

首都圏で、電車に乗るために長い列を作っている人達を見ていると、
冷静さをしっかりと自分に課していることが分かる。
分かるが、この状態がこのまま続けばどうなるのか、不安になる。
遅々として進まない東京電力の冷却作業。
それをこの人達はメディアを通して熟知しているはずだ。

静かな混乱が彼らの心の内側で進んでいるのではないか。
夥しい情報を受け取り、自分なりに納得点を見つけ、
情報を編集しながら、今の位置に立っている。
だが、情報は次々と流入し、記憶装置=ハードディスクが一杯になる。
編集能力が低下して、何度もフリーズする。
再起動させて、ふたたび編集作業を繰り返す。
だが、それに耐えきれなくなる人も出てくるに違いない。
いや、すでに出現しているのかも知れない。

サイレント・パニックという言葉が浮かんでくる。
決して暴動や暴徒と化すわけではない彼らの日々。
だがその内面では、決して後退することのない静かな混乱が続く。
それは「福島第一原発はようやく沈静化しました」
という言葉がメディアを通じて頻繁に語られる時まで続く。
メディアこそが彼らの行動のアリバイであるかのように。
しかしメディアは真実を伝えているのだろうか?
もやはそうした疑問符を抱くことはできないのかも知れない。

中西克己は、
いつか精神的に錯乱した者が現れるのではないかという。
自分の精神活動を思えば、そうなる者がいても不思議ではないと。
この不幸な予想は、今のところ現実化していないが、
決して起こらないことではないと考えると、とても不安になる。

「日本人はすばらしい」と諸外国メディアが伝えている。
そのことを我々日本人は知っている。
「そうなのだ、自分たちは規律正しく、控え目なのだ」
という矜持がある。だが、それは「今はある」ことなのだ。
これ以上このままの状態が続けば・・・。

簡単にいえば、
「我慢に我慢を重ね、最後に爆発する」
こうした資質、性質を我々日本人は共通項として持っている。
忠臣蔵やヤクザ映画に共感するのは、
この「我慢に我慢を重ね」という要素へのものだと思う。

長い列を作って電車に乗ろうとするおとなしい人々、
被災地でモノを買うために何時間も並んでいる人々、
彼らの心的なものに対して、だれがケアをしているのだろうか。
そうした心のケアは自己責任だと言い切れるのだろうか。
自分で解決しなければいけない事柄なのだろうか。

サイレント・パニック……。
いま、首都圏を中心に、これが始まっている気がする。
実に心配だ。
by kazeyashiki | 2011-03-17 09:22 | 世界 | Comments(0)

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