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津波の話を聞いた

佐々木さん宅で夜、地震と津波の話を聞いた。
奥さんの親戚の方が、7名行方不明になったことは、
前回4月12日に出掛けた時、正確にではないがお聞きしていた。
そして今回、行方不明の7名の方々の消息を聞いたのだが、
全員、亡くなられたということだった。
彼女はそのことを悲しみに満ちた表情で話すのではなく、
実に淡々と、さりげなく、「結局7人ともダメだったよ」と語った。
しかしその表情の裏側には大きな喪失感があるように思えて仕方なかった。

石巻に2名、気仙沼、その他の地域で暮らしていたか、
あるいはそれぞれの町で仕事をしていて、津波に呑み込まれたという。

また、野蒜という町の体育館での話も聞いた。
地震発生後、避難場所としてその体育館に多くの人々がやって来た。
だが、津波が体育館を襲い、多くの人が逃げまどい、
カーテン伝いに高い場所へ行く人、浮かんだマットにしがみつく人、
そして体育館の二階キャットウォーク部分へたどり着いた人などがいた。
だが、それもできずに津波に呑み込まれてしまう人もいた。
二階部分から懸命に手を伸ばしたり、ロープや幕を投げたりしたが、
体育館に入り込んできた津波は渦状となり、
まるで洗濯機のようにグルグルとした水流を作り出したのだという。
そして幾人かの人達がそこに呑まれてしまった。

松岡正剛さんの「千夜千冊」に、一編の詩が紹介されている。
『鎮魂詩四〇四人集』(コールサック社)という、
404人の人達が書いたレクイエムだ。
その中に、奥尻島の津波(1993年7月12日、18年前!)での出来事、
それが詩になっている。
作者は麻生直子さんという詩人だ。

    「手を離したひと」

     二度目の波が恐ろしいちからで退いていくとき
     おもわず妻の手を離してしまいました
     手を離さなければ 
     腕にからめて掴んでいた草の根もろとも
     ふたりとも引きずられてこれ以上耐えられないっと
     思うよりさきに自分は踏みとどまっていて
     妻の姿がずずずずーっと黒い波の闇のなかに
     声もあげずに ずずずずーっと
     あの夜の津波の出来事を
     問われるままに確かにそのようにいいましたが
     そのころはまだ妻はわたしの首のまわりや肩にとまって
     たましいのようなまろやかさで
     わたしの離しにうなずいていたのです
     (中略)
     あの夜 妻の手を離して津波に呑みこまれたのは
     ほんとうはわたしなんだ     

今回の津波でも、
手を伸ばし、助けようと頑張ったひとは大勢いたはずだ。
助けられようとしたひともいた。
今回の地震と津波によって引き裂かれたものがあり、
それによって今、人間の内側でいくつもの大きな苦悩が浮き沈みしている。
決して言葉にして語ることはないが、
消そうにも消せない光景が明滅しているだろう。
by kazeyashiki | 2011-05-18 01:00 | 世界 | Comments(0)

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by 上野卓彦