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芸能史

学生時代、日本文化史の講義がいちばん面白かった。
専攻は仏教文化で、ゼミは中国から日本への佛教伝来についてだったが、
教理教義といった思想哲学的な領域ではなく、
中国の土着宗教である道教に、インドから入ってきた佛教がいかに混淆し、
さらに日本へいかに伝わって来たか……
こう書くと難しそうなテーマのように見えるが、見えるだけである。
おれが書いた論文はほとんど芸能史だった。ゆえに評価は低かった。

林屋辰三郎が好きで、著書を耽読した。
なかでも『歌舞伎以前』と『中世芸能史の研究』は稀にみる名著だ。
能楽や歌舞伎の源流にある田楽や猿楽などを知り、
芸能史とは民衆の歴史であること、
さらにそれらは郷土史や女性史、部落史にも結びついていく。
左翼的にいえば、芸能の歴史は日本階級史であるかもしれない。

林屋さんの講義は生では聴けなかったが、
ある夏、関山和夫先生が1週間通しで特別講座を開かれた。
関山先生は、愛知県の浄土宗西山派の寺に生まれ、
高校教師から女子大の先生を務められていた話芸研究者だ。
講義のテーマは「説教の歴史」。すぐに飛びついた。
岩波新書から同名の書が出版されていて、それがテキストだった。
すでに当時、学生劇団を結成していたので、
劇団員にも声を掛けた。「この講座はきっと面白いよ」。

講義は抜群に面白かった。
説教というのは話芸の源流である。
曼荼羅絵解き、祭文、琵琶、浄瑠璃、浪花節、萬歳、講談、落語と、
話す芸の根本、それが説教であると先生は定義する。
そこでおれは、落語の祖といわれる安楽庵策伝の「醒睡笑」を知る。
ここから初代露の五郎兵衛が登場し、講義は落語史へと進んでいく。
アッという間の1週間であった。

その後、関山先生がいろいろなイベントに出演されることを知った。
京都に来たときに見に出かけた。
そこに登場したのが小沢昭一さんだった。
永六輔さんも一緒だった。
小沢さんは日本の放浪芸に関して書やレコードを出すなど非常に詳しく、
映画やラジオで知っていた小沢昭一とはまた違う側面を発見した。
しかも話がうまい。おもしろい。
役者だから、ものまね、声色、演技などが次々と出てくる。
まじめであって不真面目、上げて落としてまた上げる、
身も蓋もないことを言っては取り返す……といったことが連続する。
まさに話芸であった。
もともと「ハーモニカがほしかったんだよ〜♪」という歌を高校生の時に聴き、
ケッタイナおっさんやな、と思っていた。
たまに映画やテレビで癖のある役を演じている程度しか知らなかった。
演技者としての評価はあると思うが、詳しくは分からない。
そんな小沢昭一さんが身罷った。83歳、自宅で亡くなったという。

今年は本当に名優たちが亡くなる年である。

合掌
by kazeyashiki | 2012-12-11 10:25 | 芸能文化 | Comments(0)

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by 上野卓彦