工事現場の男の横を   

今日、近くのビル建設現場の前を通った時、
建設作業員が働いている中に年老いた男がいた。
ヘルメットに作業ジャンパーはみな同じだが、
白くなって伸びた髪がはみ出したのが見え、顔を見たら老いた男だと分かった。
その男は、若い、といっても四十を超えた恰幅のいい男から注意を受けていた。
老いた男は両手に、ビルの床に張り付けるためのものなのか、
30㎝角のタイルを何枚も載せて運んでいる最中だった。
四十の男は怒気は含んではいないが、励ますという感じではなく、
叱っているのでもなく、老いた男にぶっきらぼうに言葉を投げかけていた。
男は顔をしかめ、小股で四十男の後をついていく。
両手のタイルを家宝の大皿を運ぶような腰つきで。
働くことは苦しい。これまでの経験など何も通用しない現場ばかりだ。
まして年を取れば、仕方なしに雇われている現実を押し付けられる。
しかし働かなくてはならない現実もある。
それを不運というか、努力不足と呼ぶかは知らない。
若い頃のツケが回ってきたからだとも言うかもしれない。
だが、老いた男よ、体が動くならあなたは働こうとするだろう。
なぜかそう思う。
通り過ぎただけの者が余計なことを言うが、
あなたの横を通り過ぎていった10秒か15秒の間に長い年月が過ぎた。
死ぬまで働くと言った言葉をあなたは死ぬまで繰り返すだろう。
それがこの世の幸福ならと笑ってあきらめて。

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by kazeyashiki | 2017-03-01 01:49 | 素描 | Comments(2)

Commented by yoko at 2017-03-06 14:30 x
文章とは不思議なものですね。命を帯びてその人になるような。
Commented by kazeyashiki at 2017-03-07 00:40
言霊の連なりなんでしょうか。どこかで同期してしまう。案外、物理学の世界に共通するのかもしれませんね。

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