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被災地の農業   

被災地では行方不明者が夥しい。そのことを思うと胸が痛む。
瓦礫のなかに、海中に、あるいは別の場所に、人々がいる。
彼ら彼女らを探しているひとがいる。
姿が見えなくなった人々がいたと思われる場所へ日参し、歩き回り、探す。
こうしたことを積み重ねている。自分もそうするに違いない。

地震と津波の後、本来の日常に還ろうとする人々がいる。
土地に暮らし、大地を耕し、農作物を作っている人々だ。
ぼくは農業が好きだ。農業を生業としている者ではないが、
土地を耕作し、作物を育てる農の世界に価値観を見出している。
それは明確化できない出自に関係しているからかも知れない。

被災地の関東東北地方では、農作業が再スタートしている。
ぷよねこ氏の知人、一緒に温泉へ出掛けたことのある佐々木氏から、
震災後の活動を伝えるメールが昨日届いた。

海岸部から距離のあった佐々木さんの田地は塩害被害はなかったが、
生産組合の仲間は津波で亡くなり、作業場も農業機械も流された。
そのことで佐々木さんは大きな後遺症を自覚しているという。
「残された我々が頑張らないといけないと思うのですが、
 身体がいうことをきかないのです」
頑強でおおらか、底力のある人物がこう書くことにショックを受けた。
あの地で起こったことの大きさが彼の言葉から、
たしかな重さ、深さを伴って伝わってくる。

だが、佐々木さんは頑張ろうとしている。
塩害の被害を受けなかった耕作地が目の前にあり、
「米が作れるだけで感謝です」と書く。
生産調整の見直し、種籾の手配などこれから決まることを控え、
それでもやる気を起こして、米を作ろうとされている。
心と身体に錘(おもり)を抱えながらも、播種機を動かしている。

あるブログで読んだ次の一文が印象に残っている。
それは、この混乱時でも日本人はなぜ整列できるのか……という、
民の美徳を訴える書き物のなかに引用されたものだ。

「自然の所与は、課せられた圧倒的な問いであり、米の収穫は、それへの回答である。問われては答え、問われては答える。問いは、毎年異なる。いや、あらゆる時に異なってくると言えるだろう。水、土、光、空気の流れは、刻々に変化している。生育する稲は、それらの変化に刻々と応じる。それらの性質を分離させては、新しく束ね、また拡散させる。それらの性質の限りない差異に入り込み、選り分け、結びつけ、流れの中に驚異的な統合の線を創り出す。そうして、米ができる。農村の父達が、ほんとうに信じているものは、都 会人が教える効率でも、利潤でもない。この働きだけである。」

これを日本国民の美徳として解釈することはどうかと思う。
ここに書かれていることは、農民の仕事への姿勢である。
農業を生業としている人達の精神について語っているのであって、
首都圏で整列乗車する日本人をカバーしているとはぼくには思えない。
もちろん首都圏の人々がいう、「被災地の人達のことを考えると……」
という言葉に嘘はないだろう。
だが、それをこの一文を援用してまで美徳にしてしまわれるのは、
首都圏の人々にとっても面映ゆいことではないか。
少なくともぼくが「それは日本人の美徳ですね」などと言われたら、
こう言うだろう。「それはちょっと違うと思います」と。

福島県のJAが発表した報告書がある。そこにはこういう注意事項がある。
「耕うん作業は、放射性物質が地表面に留まっていると考えられるので、行わない」
「出荷できない品目は記録簿を作成し、写真撮影しておく」
「収穫したものはビニール袋に入れて保管する。すきこんだり焼却しない」
これは農家にとって「息を止めて立っていろ」というのに等しい命令である。
農作業及び農作物は常に動いている、生きているのである。

春である。
全国各地の農地では、すでに米作り作業がはじまっている。
育苗され、春起こしの耕耘がおこなわれている。
だが関東東北地方の農家では、自然からの問いかけに答える術なく、
呆然と立ち尽くす日々が続いている。それは厳しくつらい日々である。

by kazeyashiki | 2011-04-04 09:53 | 世界 | Comments(2)

Commented by tanimura at 2011-04-04 12:07 x
日々、被災地のことを知ろうと試み
被災された方々の気持ちに寄り添ってみようと
したりしていますが、
被災された方の気持ちや状況は
本当のところ
被災された方にしかわからない
ことだらけだろうと思う毎日です。

先日、おっしゃっていたように
たまさか農業に関わる仕事をしている
私たちにできることは、
復興を見守り、記録していくことかと
現状、考えているところです。

またお話したいですね。





Commented by kazeyashiki at 2011-04-04 12:22
コメント、ありがとうございます。

本当に、見守っていくことしか今はできません。
それが心苦しく思うこともあります。
広範囲の農業地域が被害に遭い、
その結果、農家の方々は土地を離れる、作業をやめる、
農作物が私達に届かなくなる、放棄地が増える……
食物自給率も含め、何もいいことがありません。

だけど復興しようと努力されている方々がいます。
我々はそうした方々の力の記録を丁寧に取っていくことが大事ですね。
おそらく長い時間がそこには必要でしょう。
その道に寄り添うことが求められています。
今からそれが始まるのだと思います。

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