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大神神社参拝とむかしの正月

元旦一日は、午前五時に目を覚ます。
除夜の鐘を聴くか聴かないかくらいに寝たので、早く起きた。
「紅白歌合戦」は、ぼんやり眺めていた程度で寝てしまった。

まだ暗い元日の朝、
ベランダに出ると、さほど寒くはない。
もう初詣に出かけようとする若者たちが谷町筋を歩いている。
驚いたのは、向かいの筋にあるホテルから幾人かの人たちが出てきて、
喋りながら歩いている。その言葉が中国語風だった。
おそらく観光客なのだろうが、彼らも初詣に行くのだろうか。
家族のようで、幼い子どもや年配者も交じっている。

中華圏の正月はこの時期ではなく、旧正月に祝われる。
中国、台湾、韓国、モンゴル、ベトナムの国々だ。
ベトナム語では「テト」。
この言葉はベトナム戦争時の作戦「テト攻勢」を想起する。
この作戦によって多くのベトナム兵士が亡くなり、
成功だったかどうかは評価の分かれるところだけれど、
結果的に米軍は退いていった。

2003年の大晦日。
ベトナムのディエンビエンフーからさらに北に行った寒村にいた。
日付が変わって元日になろうというのに、
宿泊していたゲストハウスは静まりかえっていた。
同行の今は亡きカメラマンMさんと、一応の新年の挨拶を交わし、
そのまま寝た記憶がある。
翌朝も現地の人々は祝う顔など一切せず、朝食のフォーを屋台で食べていた。

話を戻す。

早朝の電車に乗って、奈良の桜井駅をめざした。
ここ数年、元日には三輪明神大神神社に参拝する習慣になった。
義父と一緒に出かけるのだが、今年は義母とその娘、つまり嫁も一緒だ。
桜井駅から小さなバスに乗り換え、町の住宅街の狭い道を走る。
この旧街道は一般車両の通行が禁止されていて、スムーズにバスは走る。
国道は渋滞している。もちろん三輪山への参拝客である。
なぜクルマで来るのか、ふしぎに思う。
駐車場に入るのに相当の時間がかかっているはずだ。
かなり手前の道までクルマがぎっしり詰まっている。
高齢者や小さな子どもを連れているからクルマなのだろうか。
しかしそうでもないように見える。
クルマはたしかに便利だけど、混雑して待つのはイヤだなと思う。

大神神社と書いて「おおみわじんじゃ」と読む。
ちょっと無理があるようにも思えるが、
大物主大神(おおものぬしのおおかみ)が祭神であるから、文字的にはいいのだろう。
古い神社である。弥生から縄文時代まで遡るという説もある。
三輪山を神体としていて、拝殿から拝むことになる。つまり本殿がない。
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参道にはずらりと屋台が並んでいる。
たいがい、よく見かけるたこ焼きやフランクフルトソーセージ、どら焼きなどだが、
時折、余所ではあまり見かけない商品を並べている屋台がある。
三輪そうめんの曲がった部分をまとめている「ふし」が売られている。
味噌汁やすまし汁にそのまま入れる、いわば素麺の切れ端だ。
「そうめんふし」とか、その形状から「かんざし」と呼ばれている。
なかなか便利な食材なので、買うようにしている。200gで200円程度だし。
また、奈良だけのものではないが、豆納豆と生姜板という和菓子の屋台がある。
これも毎年定番のもので、むかしの菓子である。実に甘くて、うまい。

そんな屋台を見ながら参道を登っていく。
この神社がいいと思うのは、素朴で清楚なたたずまい、という点だ。
仰々しさ、派手さがない。
どこか別の神社と比較しているわけではないのだが、
境内の気配、周辺の景色、音環境、
そして参拝する人々の様子がとてもいい。
初春を祝い、健康や円満や安全といったことをひたむきにお詣りしている、
という感じがただよっている気がする。
神と人の関係が実に柔和でやさしい感じを受け取るのだ。
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参ったあと、境内で御神酒が振る舞われている。
浄財というのか、100円を受け台に置いて白い盃に巫女さんが注ぐ。
お礼をいって、いただく。ひんやりとした酒がうまい。

三輪山の登り口まで登り、そこにある社に詣でる。
山へは普段なら登ることができるが、元旦三が日は聖域となり、立ち入れない。
いつかいい季節になったら登ってみたい。
帰路に小高い丘があって、そこから大和三山が見渡せる。
昨年は雪空だったので霞んでいたが、今年は三山とも見ることができた。
耳成、畝傍、香具の小さな山々が、二上山を背景にして点在している。
その山容が、けなげでいい。
万葉の時代から詠われてきた山々だ。
まっさきに思い出すのが、天の香具山になる。
「春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山」
持統天皇のこの歌を百人一首で憶えたのは小学生の頃だった。
山の緑、白い衣、そよ吹く風が、大和に夏が来たことを報せる。
実にさわやかで、気持ちのいい歌だ。
耳成は140m、畝傍は199m、香具山は152mの高さで、
正三角形の中心に、持統天皇がいた藤原京があった。
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丘から下ってきた途中の道で、甘酒を売っている店があった。
普通の家の軒先で、当家の奥さんが火の番をしている。
この地で採れた栗を焼いたりもしていて、香ばしい匂いがする。
冷えた身体にあたたかな甘酒が滲みる。

さらに屋台であれこれ買い物をする。
行きに見た豆納豆と生姜板の袋をそれぞれ買い求め、
素麺ふし、干し柿などを買う。
桜井市にはいくつかの酒造会社があって、そのうちの今西酒造に寄る。
大神神社は醸造の神様でもある。
店先で酒粕を買い求める人が群がっている。かなりお買い得なのだろう。
試飲をすすめられて、「三輪のどぶろく」と「鬼ごのみ おり酒」を頂く。
「おり酒」が旨い。これを求めることに。
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沢ガニを並べている店がある。蟹汁を、と義父がいう。
野趣溢れる味だ。

また小さなバスに乗り、桜井駅まで戻り、普通電車で河内国分へ戻る。

早速、雑煮を頂くことに。
すまし汁に焼いた丸餅と三つ葉を入れたもの。
これはどこ風の雑煮なんだろう。おそらく大阪風だと思うのだが。
父母と暮らしていた頃の正月は、
元日が、すまし汁に焼いた丸餅、人参、三つ葉で、
二日目は、母の故郷越前風の味噌仕立てで、焼かない丸餅と蕪を入れていた。
祖母たちは、カニや魚介類入りの雑煮だった気がする。
子どもはこうした豪勢な雑煮は食べさせてもらえなかった、
というより、食べても美味しいと思わなかったのかも知れない。

そういえば、歌舞伎役者の片岡仁左衛門(松島屋)家の雑煮は、
元日が京風、二日目が大坂風、三日目が東京風と決まっているという。
そして元日から餅の数を増やして食べるそうで、
これは「食べあがり」を意味しているとか。
仁左衛門は京都、大坂、江戸で活躍したから、こうした雑煮にするそうな。

おせち料理を少しずつ食べながら、買ってきた「おり酒」を呑む。
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口当たりがいい分、盃がすすむ。抑えようとするのだが、うまい。
酔いがすぐに来てしまう。お茶を飲んだりするが、もう手遅れだ。
気がつけば、こたつで寝てしまっていた。

その後またごそごそ起き出すのだが、総じてこうしたゆるい元日だった。
by kazeyashiki | 2012-01-01 23:59 | 暮らし | Comments(0)

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by 上野卓彦