人物素描録   

19歳のときだったか、
一乗寺の下宿の先輩にこんなことをいわれた。
「知人友人録を作るといいよ」。
友だちについてのスケッチみたいなものを作っておけば何かに役立つ、
というわけだ。

まだその頃おれは芝居をしていなかった。
ただ、ものを書くのが好きで、
学生が集まって作っていた同人の詩誌に参加していた。
まずその同人仲間の肖像を素描してみた。
趣味や、好きな詩人、作家、音楽などを数行書いた。
そして全部で10人くらいになっただろうか。

ちょうど、この年の暮れに大学内で劇団を結成した。
何人かの志望者が集まってチラシを撒くと、たくさん集まってきた。
そして上演することになって、しばらくは既成作品に頼ったが、
オリジナルもやりたいという気持ちになり、初めて戯曲を書いた。
「月光物語」というタイトルである。
一種の幻想物語で、稲垣足穂の物語に影響を受けたものだ。
だが、甘ったるいロマンスなんぞもたっぷりあって……
思い出すだけで、穴があったら入りたい、
なければ掘ってでも入りたいくらいの作品だ。

これを書くときに役立ったのが、「知人友人録」であった。
人物造形を、すべてここから採用した。
だが当時、女性の友人などいなかったので、
高校時代までに知り合った人たちを思い出して書いた。
4〜5歳のとき初めて好きになった子、小学生低学年のときの子、
高学年のとき、中学生になってから、そして高校時代のあの娘、
といった女の子たちだ。そこから人物像を創り上げた。

「この娘なら、こういう時、こういう言い方をするだろう」
「こう言われると、彼女ならこう反応する」
「落ち込んでいると、あの娘はこんなふうにして励ますだろうな」

そういう空想というか、ほぼ妄想の世界で芝居を書いた。
書きやすかったし、思い入れをこめて書くことができ、冷静さを欠いたこともあった。
だが、この手法はいまでも成功だと思っている。

以来、知り合って自分の内に残る知人友人についての素描録を続けている。
趣味、性格、言葉などを記しただけのものだが、読むとなかなか面白い。
最近はちっとも書いていないので、とりあえずデスクの上に置いておこう。

by kazeyashiki | 2012-01-07 23:59 | 記憶 | Comments(0)

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