夷川通   

京の通りめぐり、三月の掲載は「三条通」ともう一本「夷川通」を選んだ。京の家具屋街として有名な通りだ。かつて丸太町通には材木店が軒を連ね、北山杉などの木材を扱っていた。夷川通は、丸太町通の二本南、下ルに東西に延びる通りだ。「♪~丸竹夷二押御池姉三六角蛸錦~♪」の三文字目の通り。丸太町の原木を夷川できれいにして家具に仕上げたのだろうか。かつての盛況は薄れているものの今も家具屋が何軒か並んでいる。夷川通は堀川通の二条城前からはじまる通りで、今や整備された水路となった堀川に小さな橋が架かっている。ここを起点にして狭い夷川通を東へ向かって歩き出す。

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商人町なので、彼らを目当てにした食堂があったが今は閉じられている。いそがしい商いの合間を縫って、うどんとお稲荷さんでもつまんでいたのだろう。

通りを歩いていると、建物の細かな部分にまで目が届き、いろいろ発見するものがある。仕舞屋などふだんは見ないものだが、閉じたうどん屋の前にたたずむと、多くの商人たちが暖簾をくぐって「すうどん!」と奥に向かって叫び、テーブルに座ってせわしなくハイライトに火を付けたりしている情景が思い浮かぶ。店の外まで漂ううどん出汁の匂い、途切れることなく鳴る出前注文の電話のベル、「番頭は~ん!」と言いながら店に飛び込んで、飯を食っている旦那を呼びに来る丁稚の姿。もしかしたら繰り広げられたかもしれない情景を幻視する。

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そんな商人の町夷川で明治17年に創業したのが「豆政」だ。この場所で豆の雑穀商として店を出し、やがて五色砂糖掛豆の販売をはじめ、京都駅で土産物として売って人気を集めた。今も「夷川五色豆」としてよく売れている。店の人と話していると、「柳馬場を下ったところにあるハリストス正教会はなかなかいい建物ですよ」と教えられて向かう。

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こげ茶色の町屋が並ぶ通りの間にいきなり純白の西洋建築物が目に飛び込んでくる。明治30年に、京都能楽堂跡地を購入し、同3412月に聖堂「生神女福音(しょうしんじょふくいん=受胎告知)」が完成した。ローマンカトリックやプロテスタントが西ヨーロッパを中心に広がったのに対し、東方正教会は中近東からギリシャ、東欧、ロシアに広がったもの。日本へは江戸末期、函館のロシア領事館の司祭であったニコライによって伝道された。ニコライといえば神田駿河町にあるニコライ堂の名で有名な聖人だ。ニコライ堂では、森繁久彌主演の映画「社長シリーズ」で、森繁の恐い妻を演じた久慈あさみさんの埋葬式がおこなわれた教会である。久慈さんはニコライ堂で聖歌隊の歌に感動して洗礼を受けたそうだ。京都ハリストス正教会では「イコン展」が開催されていて、19世紀のつくられたものや最近の作などのイコンを眺める。厳かで、何かこちらに対して不思議なオーラを放っているような感覚を受ける。

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夷川通に戻る。「櫻井」と旧字で書かれた店があり、「机と茶棚花台専門店」という看板が上がっていて、軒先に文机や食卓机が並べられている。見ていて飽きない。店前で見入っていると中から若女将さんが出てきて気安く声を掛けてくれた。やがて大女将も来られて「少し前にテレビ番組で原日出子が店に来たんやで」と笑う。

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寺町通に出たところに「本因坊発祥の地」の石碑があり碁盤のレリーフがあった。この界隈にあった寂光寺(現在は左京区仁王門通東大路西入ル)の塔頭「本因坊」の日海は囲碁の名人として名高く、徳川家康に招かれて江戸幕府の碁所を任された人物。今年、世界一にはならなかったが、囲碁棋士の井山裕太は天才棋士だ。囲碁といい将棋といい、最近メディアでよく取り上げられている。それがどうも解せない人もいるようで、過日「上野さん、将棋や囲碁の人がなんであんなに注目されたり、国民栄誉賞をもらったりするんですか?」と聞かれた。その人は囲碁将棋を全く指さない人だった。こういう人に説明するのはなかなか難しい。


寺町通の一保堂茶舗の角を曲がって夷川をさらに東へ進む。河原町通を渡ると鴨川が見えて来る。実は、かつてこの夷川通には鴨川に橋が架けられていて、鴨東へも通りはつながっていたのである。その痕跡として、今も鴨川には橋の礎石が残っていて、人々がこの石を踏み飛んで渡っている。橋は昭和10年まで掛かっていたようだが洪水で流され、その後再建されなかったそうだ。

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大きな河原がある川を持つ町はいいなと思う。家々が建て込んだ路地などがあって、そこを抜けると空が高い広場に出る爽快感。日本人は河川や河岸をあれこれ触る(工事をすること)が好きだが、ある程度整備されて芝生などの下草が植えられた状態でいいと思う。水防や砂防など諸問題があるにしてもだけれど。


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by kazeyashiki | 2018-02-10 11:57 | 京都 | Comments(0)

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