朝の9時半。ラッシュの時間すぎた地下鉄谷町線南森町で声かけられた。
「かんじょうせんはどちらでしょうか?」
と聞こえた。
この駅からはJR東西線には乗り換えられる。
だが環状線は無理だ。
「環状線ですか?」
車両発車の騒音の中、声をあげて聞くと、
「いえ、環状線ではなくて、繁昌亭!」
納〜得!
「そちらの方向に行きますから」と水先案内人と化した。
「市内に住んでますが天満のあたりはようわかりませんよって」
その年配の女性はすまなそうに言う。
「お茶の先生にご招待受けましたのでぜひとも来ないといけなくて」
歩きながら自分の茶道流派のこと、京都堀川の本家に通っていたこと、
息子が南森町の近くの学校に通っていたことなどを話す。
南森町から繁昌亭までわずかな距離である。
その間に多くの情報を分かりやすく覚えやすく話すのは才能ではないかと、
案内した後、東天満方面に歩きだして思った。
しかし、おれは余程声掛けられ易い人間なのか、あちこちで道や場所を聞かれる。
ガードが緩い、脇が甘いのだろう。
今から25年以上前、
友人のS田君とベルリンに遊んだ時、街路を歩いていると道を聞かれた。
しかも3度……。
観光客に見えないのかとその時は嬉しがったが、以降も実によくキャッチされる。
緊張感がないのは常だけど。
京都の町歩き中も頻繁である。
先日は、豊国神社で同年輩の夫婦に声かけられた。
「京都は3度目ですが、夏ははじめてです」
「京都の夏がこんなに暑いとは知らなかったです」
三十三間堂を見てきたのだけど、
ほかにこの近辺でいいところはあるかと尋ねられたので、
妙法院、智積院と告げた。
台湾から来た人だった。
大阪城公園を散歩していた時など、
大勢の中国からの観光客の団体さんを
日本庭園越し天守閣の場で10枚以上、記念撮影した。
スマホも合わせて10台のカメラである。
おれには手に余る一眼レフのカメラも中にはあり戸惑った。
被写体の人々が、次々と「私も、私も」と言い出して。
撮り終えると口々に「謝謝謝謝謝謝謝謝謝謝……」といわれた。
お礼に大陸産のお菓子まで貰った(笑)
だが、最初の繁昌亭に案内した女性は、
自分のことを見事に端的に話したものだと、改めて感心した。