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Another Time

 この長い連休を知り合いの誰もいない会社のデスクを借りて原稿を書いている。セキュリティカードと鍵を借りて使わせてもらうのは有難いことだ。家で作業ができないわけではないが、やはり緊張感というか、気持ちの張り合い具合が違う。どうしても自宅だと気が散ってしまう傾向があるからだ。


 

 家事をすべて家人に任しているわけではないから、ちょっと洗濯物がたまっていたら洗濯機を回したり、台所や洗面所のシンクが汚れていたら磨き砂みたいなチューブ式の洗剤でこすったり、本棚の前に立つと不要な本を選り分けたりして、別の時間を使ってしまう。この別の時間が大事なことは分かっているけど、これらの日常作業に手を染めてしまうと、そこから派生してもう一つ別の領分に進んでしまうことが往々にしてある。例えば、シンクの掃除をしたら気になる箇所を見つけてしまう。鏡を磨くこと、風呂場を洗うこと、窓ガラスを拭き始めたり、玄関の鉄柵の汚れを思い出したりして次々と「やっておきたい作業」が連なっていく。こうなるともう原稿書きなんてすっかり久遠の彼方だ。本棚の整理など始めたりしたら、手に取って読みだしてその日はもう終わってしまうことになる。



 昨日は午後早い時間に帰宅し、家人がいないことをいいことにギターの練習を始めた。友人の石田氏から借りている中国製ギブソンのセミアコースティックだ。これがよく響るいいギターなのである。だが、久しぶりに弾くとやはり指がまったく動かない。コード進行を1時間ほど繰り返していると、ようやく慣れてきた。スリーフィンガーやカーター奏法も蘇ってきた(笑)﨏大介さんが最近よく歌っているボサノバの名曲「おいしい水」の譜面があったのでつらつら弾いてみると、あの曲のコード進行は「Cm―D7」と進んで、次に一瞬だけ「G7♭9」というコードになる。こんなコードはまったく知らない。ネットで検索したらすぐに見つかった。押さえて弾いてみるとたしかに曲に合っている。このコードは一瞬だけですぐにまた「Cm」に戻るのだが、それが難しい。押さえる指になるまで時間が掛かった。なんとか形になってくるが、その後も「A♭M7」とか「G♭13」といった僕の腕ではとてもすぐに押さえられない難解コードが出てきて弾き通すことができない。結局、うまく弾けないまま数時間が経ってしまう。ギターの魅力は底知れないということだ。



 読書にしてもそうで、読み始めるととまらなくなるのは自覚しているが、それはもちろん仕事などとは無関係の自分本位興味本位に好きなジャンルの小説や評論だ。仕事関連であれば本の中にヒントを見つけるという作業で、読むのとは違う。しかし、好きな書物はうはうはと興奮しながら一行ずつしっかり読んでいく。それでもとびきり面白い本ならページが進んでいくのが惜しくなる。この「ページ進行惜しみ」を初めて体験したのは小学生の頃だったと思うが、これは今の年齢になっても変わらない。多くの人もこの体験をしているはずだが、これは書き手の文章作成の巧さにあると思う。地の文の読みやすさ、会話体の軽快さ、適度にこちらに想像させる領域を残しておく技術など、心憎い進め方で作文する。「うまいなぁ」と思いつつも残りのページがどんどん減っていく。



 長い連休、家族のいる家庭では様々なサービスをするために時間を費やしているのだろうけど、人の多さや交通機関の混雑で疲弊しているようだ。しかしこの史上初の10連休という長い休暇は、体験することに意義があると考えるのがいいかもしれないね。


by kazeyashiki | 2019-05-04 14:21 | 暮らし | Comments(0)

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by 上野卓彦